'10/07/04: 降水量 18ml~変態との遭遇
学生という立場上、ボクの周りでは適当な理由にかこつけて、しばしば
飲み会が開催される。適当な理由があるときもあれば、ないときもある。
とにかく宴会は宴会なのだから、それはそれである。
ボクも酒には弱いが騒ぐのは大好きなので、呼ばれればすべからく
出かけていって、傍若無人の限りを尽くし、狼藉を働いた上にへべれけに
酔っ払って帰ってくることを信条としている。まったく迷惑な男である。
ところで飲み会において迷惑なヒトというのは珍しくないらしく、飲み屋や
週末の街中では妙なヒトを頻繁に見かける。大声で叫んでいたり、雪積もる
道路に座り込んでいたり。
ちなみに後者はボクである。
先日、アメリカへ一年間の留学をしていたネギ氏が戻ってきたことを
口実に飲み会が開かれた。場所は札幌駅近くの居酒屋であった。案の定
ボクはへべれけに酔っ払ったのだが、そんな気持ちい酔いをぶっ飛ばす
変な人に遭遇したのである。
実はこの店には大きな欠点を抱えていた。トイレが二つしかないのである。
トイレが二つだけ、というのは席数に対して明らかに少なく、宴会も終盤に
差し掛かった頃にはトイレの前に列が出来た。
必要以上に大きな器で日本酒を飲んだボクが、おぼつかない足取りで
階段を登ると、そこには当然のように列が出来ていた。
「まあ、仕方あるまい」
ボクが壁にもたれつつ順番を待っていると、後ろに一人の男性が立った。
ちょうどボクの前で待っていたヒトがトイレに入ったところで、待っているのは
ボク一人であった。
「並んでます? 」
顔を上げるとそこにはサラリーマン風の男が立っていた。年齢はボクと同じか
少し年上くらいに見える。ええ、並んでますよと答えると、この男がとんでもない
提案をしてきたのである。
「あの、一緒にトイレに入りません? 」
ボクは耳を疑った。酒を飲みすぎて幻聴が聞こえる。自分にゲイの気は無い
と思っていたが、まさか。などと考えていると、男が更に話しかけてきた。
「俺が上から被せますから」
全く意味がわからない。上から被せるのは尿か、それとも竿か。いずれにしても
イヤである。そんなこと仲の良い友達とでもなかなかやるまい。それを五秒前に
出会ったばかりの男とするわけがない。そんなアバンチュールは御免こうむる。
ボクは開いた扉の間に滑り込むと、大急ぎで内鍵をかけた。扉を閉める直前、
男が寂しげに、
「あー」
と漏らしていたが、ボクは恐怖のあまり尿を漏らしそうであった。
なんとか漏らさずに用を足して、薄く開けた扉の合間からそーっと覗くと、そこに
あったのは見慣れた同期の顔であった。どうやら男は隣のトイレに入ったか、
あるいは席に戻ったらしい。
本物の変態との遭遇。まったく恐ろしい経験であった。ついでに自分にゲイの
気が無い、ということを再確認できたし、まあ、いいことにしよう。はあ。