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11/05/25 : 降水量 48 ml ~ ぶらり途中下車の旅 2/2

エッセイ

 ところが先日は話が違った。レベル3クラスの腹痛が襲ってきたとき、ボクはバスの

中にいたのである。目的地まで三分の二近くもの距離を残した状況で襲ってくる腹痛。

最悪の状況である。とりあえず下手に出てなだめてみたのだが、どうやら腸内の状況

も相当逼迫しているらしく、一向に引いてくれる気配がない。ならばと手元の文庫本に

集中し、意識を腹痛から逸らそうと試みるが、やはり駄目である。

「うーむ、途中で降りると交通費が倍になるんだよなあ。ぶりり途中下車の旅、なんて

笑えないしなあ」

 などと考えている間にも、腹部からは緊急信号が続々と送られてくる。いよいよ

危機レベルが3から4に引き上げられそうである。このあたりで腹痛には慣れている

ボクも流石に焦り始めた。

「隊長! これ以上は抑えきれません。一刻も早いベント(原子炉内の圧力を抜く

あれですね)が必要です!」

「それだけは絶対にならん! 貴様ここでベントなんぞしてみろ。人としていろいろ

失うことになるぞ!」

「ですが限界です!」

「ならんと言ったらならん!」

 まあこうやって書くとシリアスなドラマのようだが、実際には便意を我慢している

だけ。しかも事の最中はこんなことを考える余裕もなく、とにかく頭の中では、

「どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする俺?」

 と実のない考えが渦巻き、額には脂汗、目もうつろ。しかも「どうする?」と言った

ところで選択肢は二つだけ。このまま目的地まで我慢比べをするか、途中下車して

コンビニにでも入るかしかない。

 ボクは即決した。

 よたよたと席を離れ、微妙な場所にある停留所で下車する。それほどまでに状況は

ギリギリだったのだ。たかが数百円。それで人間としての尊厳が保てるのであれば

安いものである。

 このあたりには以前遊びに来たことがあるから、横断歩道さえ渡ればコンビニが

あることは分かっている。しかし無情にもボクの目の前で信号が赤に変わってしまっ

た。そういえばさっきバスの中からコンビニが見えた。どっちだ。どっちが近い? 

ロー○ンか? セイコー○ートか? 右か? 正面か? 腹痛の状況を鑑み、

二軒のコンビニの距離を考慮して、ボクは信号が再び青に変わるのを待つことに

した。頭の中はフル回転である。そしてまあ、この数分の長かったこと。永遠にも

感じられる数分ののち、ボクは再びふらふらと歩き始めた。

「これでトイレがなかったら俺は終わりだな」

 なぜか冷静にそんなことを思いながら、ボクはセイ○ーマートの自動ドアを潜った。

 そしてトイレの前には清掃用具が並べられていた。

「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 心の中で絶叫し、神を呪いながらトイレに近づくと、清掃中だったのは店内の床で

トイレではなかった。数秒前に呪ったばかりに考え付く限りの感謝の言葉を述べ、

崇め奉りながらトイレへと駆け込む。本当にギリギリの状況であった。

 寸でのところで人間としての尊厳を守り抜いたボクは、適当なお菓子を一つ買って

コンビニを後にした。トータルで五百円ほどの出費になったが、代わりに得たものを

考えればとるに足らない額である。

 このように日常的に腹痛とお付き合いをしていると、かなり際どい状況に追い詰め

られることがままある。本来は味方であるはずの自分の体が謀反を起こす。それは

大きな恐怖である。皆さんゆめゆめ油断なさらぬよう。ああ、書いてたらまた腹痛が。

痛つつつ……。

(オワリ)