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'10/08/04: 降水量 20ml ~ 猿への回帰 1/2

 当たり前ながら梅酒を漬けるには梅が必要で、当たり前ながら梅は木になる果実である。

さらにさらに当たり前ながら梅の木と言うのは得てして背の高いものである。

 「あんた今日の午前中時間ある? 」

 朝一番、惰眠を貪るボクの頭の上から、母親のでかい声が降ってきた。こっちはむにゃ

むにゃと夢見心地でいるのだから、この奇襲攻撃はかなり効く。油断しているところに

トマホークが降ってきた気分である。一発だけなら誤射なんて言ったのはどこかの阿呆

議員であったが、実際に打ち込むならボクの布団ではなく別の場所にしていただきたい。

貴重な睡眠時間を削られるボクの身にもなって欲しい。責任者出てこい!

 取り乱しました。

 トマホークの主である母親は木登り要員を探していたのだった。二十余年生きてきて、

木登りをするために叩き起されたのは初めてである。なんでも熟れた梅の実がどっさりと

なっているのに、それを採るヒトがいないらしい。ところがあいにくボクは朝から講義が

入っていた。そこで一度は断ったのだが、

 「はいはい。仕方がないから決死の思いで登るわ。アタシが自分の命だけ賭ければ

いいんでしょう」

 などと言い出す始末。たかが梅の実に命を賭けちゃう母親も母親だが、実際に怪我を

されても後味が宜しくない。やむを得ずボクが折れて講義の後に帰宅することにした。

性質が悪いとはこういうときのためにある言葉である。

 さてそんなこんなで梅の木に登ることになったのだが、ボクには大きな不安があった。

これまでの人生で一度も木に登ったことがないのである。あまり大きな声では言えないが、

ボクは頭に超がつく運動音痴なのだ。全日本運動音痴選手権があれば準決勝くらい

までは勝ち進む自信がある。そんなものは不名誉以外のなにものでもないが、こればかり

はそうなのだから仕方がない。なにしろ懸垂はおろか、うんていすら満足に渡れない小学生

だったのである。木になんぞ登れるはずもないではないか。それでもこれまで特に問題は

なく生きてきたのに、まさか二十四歳になって木登りに初挑戦する羽目になるとは。

人生わからないものである。

(続く)