'10/08/05: 降水量 22ml ~ 猿への回帰 2/2
実際に木の下に着いてからも脚立の上に立って誤魔化していたのだが、
それで手の届く範囲なぞたかが知れている。結局追いやられるようにして
ボクは木の枝に足を掛けた。手ごろな枝を掴んでおりゃあ!と体を起こすと、
目の前はちょっとしたジャングルである。得体のしれない虫の卵がびっしり
ついているわ、蜘蛛はいるわでキモチワルイことこの上ない。
ここだけの話ボクは虫が嫌いである。ゴキブリもゲジゲジも蜘蛛もできれば
関わり合いになりたくない。どちらかといえば虫が出てくればキャーとか言って
しまうクチである。良く言えばシティボーイ、悪く言えばオタク。さらに言えば
キモイ奴である。最近は弱ったスズメバチを団扇で叩き落としたりもしているが、
それはそれこれはこれである。ところがヒトは慣れる生き物なわけで、
ほどなくして卵も虫も気にならなくなった。早い話がどうでもよくなっちゃったの
である。蜘蛛がつこうが卵がつこうがピッピッと弾いて終わり。そんなものを気に
していたのでは、一向に作業が進まないのである。
虫だけでなく人生初樹上生活にも次第に慣れてくる。初めこそ不安定だった足元も
それなりに落ち着き、ちょこまかと足場を移動しては高いところになった実を集めて
いく。
「やはりヒトは昔猿だったのよねえ」
なんて阿呆なことを考えて、勝手に感傷に浸る余裕すら出てきた。しかしいくら虫
や足場に慣れても、一つだけ慣れないものがあった。小枝である。他の木には登った
ことがないからわからないが、梅の木には細かな枝が棘のように茂っていて、引っか
かるったらないのである。登ったり梅を採るにはそれを避けるようにして手足を伸ばさ
なくてはならないため、普段絶対に伸ばさない筋肉が伸びたりするのも厳しい。体を
動かすたびに、
「うへえ!目を突いた! 」
「シャツが引っかかった! 」
「ぎゃああ!足が攣った! 」
とか一人で大騒ぎである。しまいには襟首が枝に引っかかり、身動きが取れなくなって
しまった。なんというか首根っこを抓まれた猫の気分である。なんとなしに、
「にゃーん…」
などと呟いてみたが、そこはボク以外誰もいない地上数メートルの樹上。心やさしいヒト
が手助けしてくれるはずもない。ただただボクの顔が赤くなるばかりである。結局ボクは
ありえない角度で腕を伸ばし、引っかかったシャツをはずした。なんというかヨガの途中で
樹上に放置された修行僧のような気分である。
そうやって枝と格闘すること四十分、合計十二キロほどの梅の実を摘み取りボクは
地面に降りてきた。結構な重労働であったが、落ちたりしなかったのが一番の収穫である。
そんなわけでボクの猿指数はグーンと上昇してしまった。気を抜くとしゃがみ込んで
ケツをボリボリ掻いてしまいそうである。ウキキッ。