'10/12/10 : 降水量 34 ml ~ 徘徊ベーダー卿 2/2

 数日後、悪名高き○川急便ではなく、安心と信頼の○猫ヤマトによって商品は無事我が家に

届いていた。スカッシュから帰って玄関を開けたら、良く分からないデカイ荷物が置いてあった

のである。マスク一つしか入っていないはずなのに、縦七十センチ、横三十センチ、高さ五十

センチもある箱がでーんと横たわっていたのだ。ボクは箱から一メートルほど距離を取り、

その周りをぐるぐると三周回って、その上匂いを嗅いでから伝票を確認した。御丁寧にも、

 ダースベイダーマスク。

 と書かれた伝票を確認し、ボクは小躍りしながらその箱を部屋に運び込んだ。持ち上げて

みると拍子抜けするほど軽い。考えてみれば当たり前である。マスク一個が十キロも二十キロ

もあったら、被っているだけでボクの首はチェ・ホンマンより太くなる。いや、その前に首が

無くなってしまうに違いない。はやる気持ちに逆らわず、びりびりとガムテープをちぎり、

蓋を開けると中には三十センチ四方の箱が入っていた。なんというマトリョーシカ。なんと

いう過剰包装。鼻息も荒く箱を開け、箱を開け取り出されたるは、あまり立派でない、値段

相応といった感じのマスクであった。お値段六五三九円也。そこそこである。

 ちょっとした事件があったのは、この日の深夜のことである。新しい服を買ったら、それを

着てちょっと鏡の前に立つ、というのは誰しも経験があるだろう。ない? 良いの、ボクは

あるのッ。とにかく今回やや問題だったのは、それが服ではなくマスクであった点であった。

家人が寝静まった頃、おもむろにマスクを装着し、洗面所の鏡の前に立ってみる。そこには

まごうことなきダースベイダーが立っていた。少々安っぽい上、線が細くて弱そうだが、

そこは中身が中身なのでやむを得ない。右を向いたり左を向いたり、ひとしきりマスクを

堪能したあと、ボクは洗面台をあとにした。予想外だったのはこのあと。マスクを被ったまま

廊下に出ると、なんと起きだしてきた妹と鉢合わせをしてしまったのである。

「ひぃっ! 」

 二人同時に悲鳴を上げた。ボクのはそんな恰好をしていたところを見られたことに対しての

悲鳴であり、妹のは夜中に置きだしてみたら自宅でダースベイダーに遭遇したが故の悲鳴で

あった。どう考えても衝撃が大きかったのは妹の方である。自分の部屋のドアを開けたら、

パジャマ姿のくたびれたダースベイダーが立っているなんて、軽いトラウマになってもおかしく

ない出来事である。妹よ、阿呆な兄貴ですまぬ。ドアの前にカントリーマアムを置いておくから

食べてね。それからこのことは一刻も早く忘れるように。決して他人に話してはならぬぞよ。

(オワリ)